2020/06/14
移築再生用古材の磨き作業も終わり、
次は工場内での仮組みの過程に入っていきます。
さて、島村葭商店は少数の部材からのご注文も承っております。
今回は築250年の古民家から取れた欅の鴨居を製材して
床框としてお使いいただくことになりました。
築250年の湖北地方の古民家から取れた欅の鴨居
欅材は反りやすいため、仕上がり寸法に比べて
余裕のあるものを選んで製材します。
製材機で挽いていきます。
まずは木の表情を見るために、四方を薄く挽きます。
挽いた面の木の表情や節の出方、虫が入っていないかなどを確認します。
こちらは一見良い古材のように見えましたが、挽いてみると
中にガット虫と呼ばれるカミキリムシが穴を開けていました。
ガット虫は欅が苗木の段階から中に入り込み住み着く虫で
外からは中に虫がいることに気が付きません。
製材してみて初めてわかることはたくさんあります。
四方を製材してみて、床框の化粧面にできる綺麗な面を探します。
指定された寸法を綺麗に取るために、何度も製材しましたが
今回の材は全体に虫が開けた穴が点在しており、使えませんでした。
急遽、同じ古民家から取れた欅の鴨居をもう一丁製材することに。
こちらの材は中が綺麗であることを祈りつつ、製材機にかけていきます。
まずは一面を薄く挽いてみると、綺麗な杢目が現れました。
一点だけひびがありましたが、虫は入っていなさそうです。
白太の部分も製材で落としつつ、赤身の綺麗な部分だけが
残るようにしていきます。
非常に綺麗な欅の古材です。
この後、ほぞ穴やひびの部分、節が出ている部分などを落とし、
指定された寸法が綺麗に取れるように、数cmから数mm単位で挽いていきます。
mm単位で製材した古材の薄片。
cm単位で落とした古材。
今回の材は虫も入っておらず、250年経っていますが
非常に状態も良好でした。
H350×T145×L4400の欅の鴨居から、126角L2800の框材を取るために
何度も何度も製材して木の表情を吟味し、一番綺麗な部分を取り出して
納品します。
元々古材には釘が刺さっていることが多いので、
その釘を探して一本一本抜いていくのにも時間と手間がかかります。
一本の古材を蘇らせるために多くの労力がかかっています。
2020/05/17
引き続き、移築再生用古民家の作業工程レポートです。
解体して保管している部材は、一つ一つ釘を抜き、
磨いて汚れを落とし、亜麻仁油や古色で仕上げていきます。
まずは小さな部材から、コツコツと作業していきます。
主に金槌、釘抜き、ペンチなどを使い、
古材に刺さっている釘を抜いていきます。
柱に刺さっている釘も、一本一本残っているものがないか探しています。
釘が全て抜けた部材は、ホイルサンダーで磨きます。
ほぞ穴の中は細いブラシで汚れを落とします。
磨き上げた部材。
この後、亜麻仁油で仕上げていきます。
十字梁や大黒柱など、古民家の主軸となる大きい部材を磨く日は、
設計士さんや撮影の方も来られ、大勢での作業となりました。
写真手前にメインの十字梁や曲がり梁、奥に柱など、
古民家一棟分の古材が積んであります。
全ての部材を磨くのにはおおよそ1ヶ月ほどの期間を要します。
この日は、設計士さんが曲がり梁の磨き作業を体験されました。
ホイルサンダーで磨くと綺麗な杢目が現れ、
手斧はつりの跡もくっきりと浮かび上がってきます。
写真右の磨かれた部分と、左の磨き前の煤だらけ部分で、その差は一目瞭然です。
古材磨きを体験された設計士さんは、
「皮を剥いているような感覚」と仰っていました。
磨いていると、煤が取れて、梁に何かの文字が書いてあるのを発見しました。
古民家は地棟に建てられた時代(年号)が書いてあることが多く、
古材磨きの時に煤が取れ、その文字が読み取れることが多いのですが、
今回はこの曲がり梁に書いてあったのでしょうか。
肉眼で見るとうっすらと墨で文字のようなものが書いてあるのはわかりますが、
内容は読み取れませんでした。
全体を磨き終えると、今度は亜麻仁油で仕上げていきます。
仕上がりはこのような感じ。
この後、設計に応じて古色で仕上げるなど、色味を調節します。
勿論、亜麻仁油仕上げのまま使われることも多くあります。
長さ8m、重量にして700kgある大きな梁を磨いていきます。
磨き作業中は煤埃が粉塵状に舞って、服やマスクの中まで真っ黒に汚れますが、
長い年月で蓄積された汚れが落ちていくことが実感できます。
亜麻仁油仕上げ。
亜麻仁油を塗った部分と塗っていない部分で、木の表情が変わります。
木材が雨に濡れると、色が濃くなり杢目が際立ち、艶が出ますが、
亜麻仁油で仕上げることによって濡れたような美しい状態を保つことができます。
写真右が磨き前の梁、左が亜麻仁油仕上げ後の梁です。
重さが700kgある梁は人力ではひっくり返せないため、
下腹面を磨く時はユニックを使って返します。
メインの大きな梁は、全面を仕上げるのに半日近くかかりました。
欅の大黒柱はホイルサンダーで全体を磨くのではなく、
汚れている部分だけをスチールウールで手作業で磨いていきます。
スチールウールで磨くと、汚れだけが消しゴムで消しているように落ち、
部材が持っている古色の味わいはそのまま残ります。
おうちの方が住まわれていた時、日常的に磨くことのできた柱材などは、
ホイルサンダーで全体を磨くのではなく、
できる限り経年変化で生まれた美しさをそのまま残します。
亜麻仁油で仕上げます。
磨き作業前の柱と並べると、仕上がった柱の美しさがよくわかります。
仕上がった部材はリフトで倉庫の中に運び入れます。
この後、運び込まれた倉庫で仮組みをし、仕口の調整や使えなくなった部材の
差し替えなど、細かな部分を直していきます。
古民家の一つ一つの材を蘇らせるのは根気の要る作業ですが、
丁寧に扱うことで美しく再生できます。
2020/05/03
長い時間をかけて8mの十字梁を外したところで、前回のレポートは終了しました。
今度は、メインの十字梁の短い方をレッカーで吊り上げていきます。
仕口が抜けていくところ。
こちらは比較的簡単に外れました。
レッカーで吊り上げてから、敷地内に降ろしていきます。
段々と材が少なくなり、屋根の構造がすっきりしてきました。
今度は柱を外していきます。まずは柱を支えている筋交いから外します。
柱は梁に比べると重量が軽いものが多く、軽めのものは手作業のみで解体し、
運んでいます。
ユニークな形の曲がり梁。
天井裏の見えないところまで遊び心を利かせています。
自然の木の曲線を楽しむ姿勢は、今の画一化された建築では中々見られない、
昔の職人仕事ならではの魅力です。
仕口がどうなっているか確認しています。直線的な梁と違い、
ほぞとほぞ穴の角度などが難しいようです。
まずは真ん中の束を外し、その後梁の両端を同時に外していきます。
向かって左の仕口が外れると、右の仕口もすぐに外れました。
地面に置かれていても、独特の面白みのある梁です。
こちらの曲がり梁も大変独特の形。
このような曲がり方をする木は、恐らく元々崖のようなところに
生えていたのではないかと推測されます。
こちらも吊り上げて地面に置きます。
かなりすっきりしてきました。
しかし後ろから見ると、まだ桁と柱が全面に残っています。
桁材は何箇所かで継いであるので、継手の部分から順番に外していきます。
外したものは一旦地面に置き、いくつかの材が繋がったままのものは
一つ一つの部材にしてから、トラックに積み込みます。
このトラックで、古材の保管場所まで何往復もして運びます。
すべての材を順番に外していき、いよいよ最後には柱と貫が一列分だけ残りました。
これを地面に倒して、一つ一つの部材に外せば、解体終了です。
他の構造材を全て取り払ってしまったため、ほぼ筋交いのみで支えられています。
レッカー紐で貫を支え、筋交いを取っても全体が倒れないようにしています。
貫の部分にロープを括り付け、大工さんが全員でロープを引っ張ります。
レッカーを緩めていくと、筋交いを外した方へ全体が傾くので、
ロープを引っ張って倒れる勢いを殺しています。
材に衝撃を与えないように、ゆっくりゆっくりと倒していきます。
全て倒れたら、繋がっている材を外していきます。
これで全ての解体が終了しました。
後は敷地内を整地するだけです。
何も無くなった光景に少し寂しさを感じますが、ここに建っていた古民家は、
新たな地で蘇ります。
次回からは、解体した古材を磨く作業に入っていきます。
2020/04/27
いよいよ、木造建築の構造材を解体していきます。
梁や柱などの構造材はとても重いため、レッカーと人の力、
両方を上手に使い、解体していきます。
構造材を持ち上げるレッカー。
桁にレッカーの紐を括り付ける大工さんの様子。
レッカーで吊し上げられた古材。
吊し上げた古材は敷地内の地面に置き、2つ以上の構造材が繋がっている場合は、
仕口を壊れないように手作業で外していきます。
この古民家に使われている材は、ほぞとほぞ穴ががっちりと接合するように
数ミリ単位で調整されており、建設当時の職人の腕の良さが見て取れます。
外すのに手間がかかりましたが、掛矢(大型の木槌)やバールを使いながら、
一つ一つの材に解体していきます。
綺麗に外されたほぞの部分には、建てられた当時の番付が書かれていました。
解体に使われた掛矢。
大工さんがバールを使い、仕口を外している様子。
解体していくと、桁材の並びの美しさなど、木造建築の構造美が露わになり、
目を奪われます。
大きな梁を外すには、沢山の人手が必要になります。
大工さんが梁の上で、どの梁から外していくか、
仕口がどんな風に組まれているかなどを話し合い、順番に解体していきます。
レッカーで吊り上げながらの解体のため、
上に乗っている梁から順番に外していく必要があります。
メインの十字梁の上に乗っている梁の継手部分を外しています。
掛矢で叩きながら、細長い木を差し込んで「てこ」の原理を使って
力を加えていきます。
継手部分アップ。
大きな梁の上で材が継がれています。
綺麗に外れ、レッカーで運ばれていきます。
いよいよメインの十字梁に取り掛かります。
とても大きな梁のため、まずはレッカーの紐を元口部分に括り付け、
吊り上げる力を加えながら、後は手作業で仕口を外していきます。
しっかりと柱の上に乗った梁の元口の大きさ。
長い木材を使用し、てこの原理で、柱に差し込んである梁を持ち上げます。
同時に掛矢で下から上へ仕口の周りを叩き上げ、
がっちりと接合されているほぞとほぞ穴を少しずつ外していきます。
レッカーを操縦する人とそれを指示する人の意思の疎通も大切になります。
梁が抜けてくるにつれ、長いほぞが現れていく様子。
一時間近くもの間、レッカー操縦者と指示者、てこの原理で梁を持ち上げる人、
掛矢で梁を叩き上げる人など、数人の大工さんの阿吽の呼吸で作業することによって、
漸く仕口が外れました。
現れたほぞの長さに驚きます。
この古民家は長い年月の湿気を含み、仕口が膨張しており、
外すのに大変な労力が必要でした。
地面に寝かせてみると、圧巻の迫力。実に8m超えの大きな梁でした。
近くで見ると、ほぞ穴の大きさにも迫力を感じます。
この時点で、小屋組解体作業を始めてから一日半経過しています。
解体作業にかかった日数は計3日間。
残りの一日半につきましては、次回の記事でレポートしていきます。
2020/04/21
古民家が軸組みのみの状態になると、すべての材に番付を打っていきます。
番付とは、どの材をどこに使うかがわかるようにするために
建築図面の縦と横の列を「通り」と呼び、文字や数字で記を付けていくことです。
設計士さんと図面を見ながら、どの材にどの番付を打つかを確認している様子。
束に番付を書くためのコマ札を打っている様子。
一つ一つの材に番付を打っていきます。
普通、木造建築の番付は「いの一」「ろの二」のように、「いろは歌」と数字で記しますが、
今回は移築先がアメリカのため、「A-1」「B-2」のように、アルファベットと数字で記しています。
叉首にも番付を打ちます。
こうすることにより、全ての材を解体しても、再び組み直すことが可能になります。
この後、いよいよ軸組みの解体作業に入ります。
民家の構造を支えるメインの十字梁を外す光景は、圧巻です。
是非ご覧ください。